寮美千子さんの著書「あふれでたのはやさしさだった」「空が青いから白をえらんだのです」の2冊を読んだ。

重要文化財である奈良少年刑務所が、老朽化と耐震性の問題により2017年3月末で閉鎖になり、それがホテルになるというニュースを聞いても、その時は、「ふーん、そうなんだ」という受け止め方しかしなかったが、この本を読んだ後は、それに対する感じ方が変わった。

寮美千子さんは奈良在住の方で、少年刑務所の「社会性涵養(かんよう)プログラム」の中で、10年にわたって絵本と詩のクラスを担当された。その授業を通して出会った少年たちが変わっていく様子が少年たちの実際の詩とともに描かれている。

中でも印象的なのは、「人は人の輪の中で育つ」ということ、「場の力・座の力」を実感した、という言葉。ある少年が詩を発表すると、それに共感する少年たち。その中で心を少しずつ開いて行く少年の様子が語られている。指導者との1対1では実現できないことを教室の仲間たちがしてくれる。まさに「場の力・座の力」と作者は表現している。塾でも同じで、仲間たちに癒されたり、励まされたり、また、仲間たちがいるから頑張れる場面は多くある。

もう一冊の「空が青いから白をえらんだのです」の題名は、実際に少年が書いた詩だ。この中には、少年たちの詩がたくさん載せてあり、また、少年刑務所内の写真もあり、詩を読んで建物の写真を見て、「これがホテルになるのか・・・」と考えると、ちょっと切なくなる。

寮美千子さんは、本の中で次のように述べている。「細部まで美を意識したあの建物は少年たちの心を育てるのにも役立ったことだと思う。無味乾燥な四角い建物で四年も五年も暮らすのとは、ずいぶん違ったのではないか。」

閉鎖により、少年たちや刑務官、教官たちはバラバラに移動させられたのだろうか。耐震工事をするなどして少年刑務所として存続できなかったのだろうか。ホテルとして生まれ変わるようだが、そこに弱者を切り捨てた儲け主義的な発想を感じてしまう。