桐野夏生さんの「OUT」を読んで以来桐野ファンになり、桐野さんの小説にずっと魅せられてきました。
そして、今回は「IN」という題名の小説。
題名だけでも充分意味深で、惹き付けられて購入。
思えば、「OUT」は何の予備知識もなく、ただ題名と装丁そして桐野さんのキリリとした美しさに惹かれて購入しました。そして、内容のリアルなすさまじさに驚き夢中になったのです。まさに人目惚れって感じ。

いつもの桐野さんの烈しいえぐるようなストーリーを想像すると少し拍子抜けするかもしれませんが、一度桐野さんの小説を読み始めると「止められない、止まらない」となるのは今回も同じです。
でも、文学的な文章が増えて成熟した代わりにスピード感や勢いが少し無くなったような気も・・・。
柱になるのは恋愛です。
恋愛の深さ、怖さ・・・
そして小説の真実と創作に関する深い文章もあります。

小説家のタマキと青司との恋愛。
タマキが小説を書くために取材をしている作家、緑川未来男とその妻千代子と未来男の愛人〇子との恋愛。
でも、普通の恋愛小説とは異なります。ミステリー性も含まれていて、少しずつ見えてくる真実も興味深いです。
これから読む人のために、これ以上は止めておきますね。

 

何よりも驚いたのは、島尾敏雄さんの「死の棘」の小説が関係しているのです。
そういう前知識なく読んだので、アッと思いました。
その「死の棘」をなぞった小説が出てきます。
桐野さんは、以前に新聞のコラムで、大切な本として「死の棘」をあげていらっしゃって、その中で、この小説を何度も読み返したと記述されています。そして、「誠に怖ろしい小説である」と。

この「死の棘」を読んでから、こちらを読むと、さらに深く読めます。
そして真実と創作の意味が二重に理解できて興味深いかもしれません。
ただ、「死の棘」は、読んでて辛くなる小説でしたから、最後まで読みきるのは結構大変ですので、あまりお薦めはしませんが・・・。 また、中高生にはちょっと内容的に早いかもしれないですね。